ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「伶菜、それ・・・」
ナオフミさんの声がしたほうへ振り返っているうちに
自分の右手から消えてしまった・・・ナオフミさんから貰った小さなハーモニカと婚姻届。
「森村さん、それをどうするつもりだ?」
それらの行方を探そうとしていた私の頭上から
いつもにも増して更に低い声で森村医師にそう問いかけたナオフミさんの声が再び聞こえてきてしまった。
明らかに怒りがこもったその声。
その声が投げかけられたほうへ再び目をやると
カサッ、カサッ・・ピリーーーー!!!!!
薄っぺらい紙が広げられる音がしたかと思ったらその直後、紙が破れる音がした。
今度はその音がするほうへ大きく視線をずらすと
そこには
ナオフミさんとそして私の名前が書き入れられている婚姻届を
両手で今にも2つに破り切り終えようとしている森村医師の姿があった。
『それって・・・・』
「どういうつもりだ!!!!!!」
今度は自分とナオフミさんの声が重なってしまった。
どちらも深夜の廊下に響き渡るような叫び声。
声が重なってしまったこと
そして
ナオフミさんらしくない叫び声につい気後れをしてしまった私はぐっと息を呑んでしまい声を出すことができなくなっていた。
それとは対照的にナオフミさんはというと
ドンッ!!!!!
森村医師が着用している手術着の胸倉を両手で掴みながら、観察室内の壁に森村医師の体を強く押し当てた。
胸倉を掴んでいる両手はずっと強く震えたままで。
普段の、外見はクールだけど他人への気遣いを決して忘れない紳士的なナオフミさんからは想像もできない姿。
彼の激しい怒りは
微動だにできない私にもひしひしと伝わってきていた。
それでも森村医師は胸倉を強く引っ張られ続けていても決して怯むことなく、鋭い目付きのままナオフミさんを睨みつけながら
口を開いた。
「彼女がこういうモノに縛られることなく、彼女のこれからを彼女自身がまっさらな状態から、ゼロから考えられるように・・・解放してあげるために、こうしたんです。」
彼によって破られてしまった婚姻届を両手それぞれに持ってひらひらと揺らしながら。