ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『森村、先生・・・』
ついさっきまで
ナオフミさんと美咲さんとの3人でいたけれど
自分がどうしたらよいのか全く思いつかず、すっかり蚊帳の外状態にあったはずの私がようやく口にしたその名前。
だって、この時の私は
自分がどうにもできない現状を
彼に・・・森村医師になんとかして貰おうという意識が瞬時に働いてしまったから。
名前を呟かれてしまった彼はというと
腕組みをしながら軽く顎を上げた状態で、ナオフミさんに対して冷たい視線を浴びせていた。
患者さんの前では決して見せやしないその態度。
“不愉快”
彼のそんな態度にはその言葉がピッタリとはまっていた。
「彼女を・・・高梨さんをどうなさるおつもりですか?日詠さん。」
ナオフミさんを更に追い詰めるような問いかけ。
それをナオフミさんに浴びせた森村医師の瞳は
冷たい視線を通り越して、明らかに怒りに満ちてしまっている。
でも森村先生がそうなってしまっても仕方がない
もしかしたらナオフミさんは
行き先すらわからないものの、この病院から私を連れ出そうとしているのかもしれない
医師という立場の人間が私の主治医の方針に背くようなことをしようとしているかもしれないから・・・・
フーッ・・・・
ナオフミさんの口から漏れ出てしまった小さな溜息。
そして彼はゆっくりと目を閉じ、そしておもむろに口を開いた。
「・・・縫合した屈筋腱に強いテンションをかけないように気をつけながら手指他動屈曲を自分が行い、装具着用下で手指自動伸展運動を彼女自身が行う。」
松浦先生とともにリハビリを行う際に耳にするような単語。
聞こえてきたその単語はリハビリ処方箋を出している森村医師によって紡がれているのかと思ってしまった私は、声質が全く異なるにも関わらず森村医師の顔を再びじっと見つめた。
「・・・縫合した屈筋腱が癒着しないようにそれらを1時間毎に10回ずつ行う。癒着させないように、自分も彼女とともに最大限努力する。」
森村医師の唇は軽く噛み締められたままで。
その言葉を口にしていたのは
やはりナオフミさんだった。
しかも森村医師の怒りに満ちた瞳に負けないぐらいの・・・・力強い目をしながら。