ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
ピピピピッ・・ピピピピッ
ナオフミさんが溜息混じりにそう呟いた瞬間、
彼の白衣の胸ポケットの中ではPHSらしき呼び出し音がしばらくの間鳴り響いていた。
・・・プッ
「・・・ハイ、日詠です。・・・ハイ・・・・向かいま」
「すみません、美咲です!日詠先生じゃなくて私でもよければ、じゃあ、今からそっちに向かいます。」
プッ!!!!!!
ナオフミさんの右手からあっという間に奪われたPHSは美咲さんの左手の中にスッポリとおさまっていた。
「美咲・・」
「ちゃんとお互いに納得いくまでお話されたほうがいいですよ。私、ちゃんと日詠先生の患者さんに対応できる自信ありますから!」
美咲さんの突然の行動にあっけにとられていたらしいナオフミさんとは対照的に全く戸惑いというモノが感じられない彼女。
そんな彼女の自信に漲った口ぶりを耳にしたのはこれが初めてだった。
「だから任せて下さい!それじゃ、私、戻りますね。」
彼女は勢いよく口角を引き上げながら無造作にナオフミさんの白衣のポケットにPHSを放り込んだ。
彼女の頼もしい口ぶりを耳にしたのもこれが初めてで。
そして彼女は私に向かって深く一礼をし、この場を後にしてしまった。
「・・・仕事、行かなくてもよくなっちゃったな・・」
まだあっけにとられていたらしいナオフミさんは
再び白衣のポケットから携帯を取り出してそれをじっと見つめた直後、勢いよくそれをポケットに収めた。
何かを吹っ切ったかのように。
「・・・空でも、見にいくか?」
『・・・・・うん。』
天井を仰ぎ見たナオフミさんの横顔。
それは病院という所では一切垣間見ることのできない
プライベートで覗かせる彼の素顔そのものだった。
穏やかな彼の素顔そのもので・・・。
「じゃ、行くか。」
そんな彼に導かれるがまま、私達も産科病棟を後にし、
彼そして私にとっても
色々なコトがあったあの場所に
今度こそふたりで向かった。
ガチャ!ギイイ・・・
相変わらず錆びた蝶番から鈍い音がする屋上のドア。
ナオフミさんによって開けられたそのドアの向こう側は
目が眩むほど強烈な日差しだったけれど
そこに足を踏み入れると心地いい横風が私の髪を穏やかに揺らした。
先を行くナオフミさんは彼のいつもの定位置である
やや色褪せた水色のベンチにゆっくりと腰掛け、そして私のほうに手招きをした。
こっちへおいで・・・と。