ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
春の暖かな日差しを浴びながら、真新しい白衣を身に纏い廊下を歩いていた私。
いつもの私ならば、春の心地いい陽気に眠気を催すけれど
この時に限っては眠気どころか
“今日から新生活が始まる”という緊張感で
両方の手のひらがしっとりと汗ばんでいた。
このままではいけないと
名古屋城北総合病院院長室と書かれた銀色の看板が掲げられたドアの前で
右手をグーの形に握った。
ノックをするために。
でも私はその右手でドアを叩けなかった。
「なんだか急な話になっちゃってね・・・すまないね・・・せっかくこれからっていう矢先に・・・・」
だって、院長らしき人の会話らしき声が聞こえたから。
しかも今日からこの病院に配属されることになった新人の私が
なんだか耳にしてはいけないようなシビアそうな口調で。
でもドアに吸いつけられるように耳をダンボにしてその場で静止していた私。
「・・・ホントですよ、凄く楽しみにしていたのに。」
落ち着いた大人の女性の声。
「すまないね・・・凄く期待させちゃって、でも、断りきれなかったんだ。」
「仕方ないですわ・・・相手が譲らなかったんでしょう?」
「ああ・・・どうしてもね・・」
うわーー
こんな朝早くから
オトナの会話ってヤツ、聞いちゃった・・・
断りきれないとか相手が譲らないとか
なんだか修羅場チックな会話
院長らしき人とオトナの女性
もしかして・・・不倫?
院長×女医さん?
院長×薬剤師さん?
院長×看護師さん?
院長×事務員さん?
それとも
院長×患者さんとかじゃないよね?
もしかして
院長×臨床心理士ってのもあり得る?!
私の直属の上司ってのもあり得る?!
どうしよう・・このままドア開けて
上司になる人とかいたら
なんか気マズイよね・・・
「私、こうなるの、なんとなく勘付いてた。もしかしてと思ってたけど。」
あれ、この声、凄く聞き覚えがあるような・・・