ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


辞令交付式が終わった後の院長室を出て、まず向かった先は最寄り駅である南桜病院前駅。
そこから電車に乗った。
通勤時間帯ではない今、ゆったりと座席に腰掛けることができる。
電車を降りたら目的地までは走っていかなければならない。
そのため降車予定の駅まではゆっくりと座って行こうとしたのに、周囲からひしひしと感じる野次馬な視線。


『白衣、脱いでも、スクラブ(手術着)か・・・』



視線を浴びている理由。
それはあまりにも急いでいて、着替えることのないまま病院を飛び出して電車に乗ってしまったことだろう。


『こういうこと、前にもあったな。スクラブ姿で高速のサービスエリア。』



出産直後、東京の大学病院に入院中だった伶菜。
彼女が欲しがっていたベビーシューズを届けるために、その格好のまま高速道路を夜通し移動した時。
スクラブ姿でサービスエリアに立ち寄ってしまい、トラックドライバーらしき人達からジロジロ見られながらコーヒーを買ったことを想い出し苦笑い。

今もその時と似たような状況。
恥ずかしさに耐えられず、下を向いて乗車時間をやり過ごし、なんとか目的地最寄の駅に到着した。



それなのに、自動改札を通ろうとした際に

「ご苦労様です。急病人はどこに?」

駅員に呼び止められる始末。



『すみません。急患ではなく、うっかり着替えてくるの忘れました。』


「そ、それは、ご苦労様です!!!」


もう苦笑いし倒すしかないと思いながら、自動改札ではない有人の改札口を通った。



< 418 / 542 >

この作品をシェア

pagetop