ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「どうされました?・・・・急病ですか?お客様、私がそちらのお客様をお運びしますので・・・・」
普通の乗客でなさそうな俺達の格好に異変を感じたらしい駅員が駆け寄って、俺の腕から伶菜を受け取ろうとする。
乗客の安全を守るという駅員として当然であるその行動。
迷いのないテキパキとしたその行動に、いつもの俺なら安心感を抱くはずなのに
今、この瞬間はそういう感情以上になんとも言い難いどろどろとした感情が沸き立っている。
触るな
取るな
じっと見るな
近付くな
お気に入りのおもちゃを横取りしようとしている相手に対する
ネガティブな感情みたいなもの
久しぶりに感じるこういう感情
こういうのも伶菜が傍にいなければ感じられないものなんだろう
「違」
伶菜の状態を確認するために、大丈夫ですかと更に声かけをしてくる駅員に、彼女は自ら、そういう状況ではないことを一生懸命伝えようとし始める。
違うって言ってしまったら
伶菜は俺の腕から降りてしまうだろう
目的地まであと少し
ようやく訪れた幸せな時間を噛みしめたい俺は
『大丈夫ですよ。』
相変わらず心配そうに彼女を見つめる駅員をどこかへ追いやりたい
そう思って余裕の表情を浮かべた。