ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
それにこの遺伝相談部門はまだスタートして間もない部門
近年、出生前診断が発達してきていることによって、分娩前に先天性異常の胎児が見つかることが増えてきていて、妊婦の充分なメンタルフォローができないという問題が増えてきている
また、他の診療科でも、遺伝性の神経難病や疾患などを有する若年男性が結婚するにあたって子供を作っていいのか悩んでいるなどの問題も増えているとのこと
そのために、相談窓口のひとつとして遺伝相談部門を作って欲しいと、他の診療科の医師と共に、病院上層部に願い出た
そういう段階を経て遺伝相談部門が発足したが、準備期間を合わせるとまだ1年ぐらいしか経っていない
臨床心理士室からは、早川室長を招聘したが、相談件数が予想以上に多く増員したいという申し出があった
その経過を中谷さんも知っていての、遺伝相談チームへの配属を志願しているのだろう
じゃあ、なぜ俺は新人の伶菜がそこに配属することを望んだのか?
『彼女は・・・・高梨さんは“弱い自分”をちゃんと知っている。・・・・・だからなんだ。』
「弱い自分・・・・ですか?」
それは伶菜はこれまで多くの壁にぶつかってきた
その壁にぶつかって負けそうになってこともある
自殺しようとしたのはまさにそれだろう
でも、そこから彼女は這い上がってきた
そこに至るまでには、自分の弱さを受け入れなければならなかったんだろう
『ああ、他人から見れば、それはウイークポイントかもしれない。でも・・・彼女はきっと患者さん達をきちんと守ってくれる。』
「随分、信頼なさっているんですね?彼女のコトを。」
地獄を見た人間にしかみえない景色がある
その景色は
共感という力になる
支援の原動力になる
『自分の弱さ・・・・それを知っているから、患者さんの弱った気持ちを共感できる。』
「共感というのは確かに大切ですね・・・」
それらが伶菜の武器
簡単には手に入らない
教科書を見ているだけでは手に入らない
遠回りして苦労している人間だけが手に入れることができる
強くなれる
そんな武器
『だから強くなれる。そんな彼女をずっと見てきたから・・・僕はそう思う。』
「ずっと見てきた・・・んですね・・・彼女を。」
『でもそんなのは結局、全部僕が取ってつけた正当そうな理由で・・・・・・』