ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
3年前、ナオフミさんから離れた時以来会っていなかった。
当時、1才だった祐希。
現在、4才になった祐希。
「やっぱり、パパだ。」
そんな彼は、両腕を大きく広げながらしゃがんでいたナオフミさんの胸の中に勢いよく飛び込んだ。
1才の記憶・・・・そんなのは長く保てないハズ
でも、祐希はちゃんと覚えていた
ナオフミさんに抱きしめられる感覚を
自分の一番近くにいた男の人の存在を
自分を一番愛してくれている男の人の存在を
「ねえママ。そうでしょ?」
いったんナオフミさんの胸の中から顔を上げ、自信満々に私に問いかける祐希。
必死の努力もむなしく、私の目からは大粒の涙が流れてしまった。
血の繋がりのないナオフミさんをパパと認識している祐希。
血の繋がりのない私の父親を親父と呼ぶナオフミさん。
彼らの繋がりは血なんかよりも濃い・・・そう感じた瞬間だったから。
『そうそう、ハワイで、お星・・・お星様のね・・勉強していて、やっと、やっと・・・帰・・っ・てきた・・・んだ・・・よ』
流れる涙をこっそりと右手で拭いながら
私は嘘をついてしまった。
ナオフミさんのところに帰ってきたのは私なのに。
祐希とナオフミさんそして私を繋ぐ
・・・・大切な嘘
昔、母がついた“お父さんはプラネタリウムの研究員で、お星様にもっと近付きたくて自分も星になっちゃったの”という嘘
その嘘があったから私は
過労死という事実を知ることなく、誰も恨むこともなく父の死を受け入れられたのだから。
だから、こんな嘘もきっと悪くない。
だってこの嘘は
幸せに繋がる嘘に違いないから。
「やった!!!!!!!!!お帰りパパ!ボールであそんで♪・・・りょうくんもやろうよ♪」
祐希は地面に転がってしまっていた青いボールを拾い上げて満面の笑みを浮かべながらナオフミさんと友達のりょうクンを強く誘った。
「ああ、じゃあ遊ぼう、ボールで。」
そう言いながらナオフミさんは祐希の頭を大きな手で優しく撫でた後、安堵の表情を浮かべながら私のほうに振り返った。
彼がようやく緊張感から開放された瞬間だった。
午後1時前、祐希の通っている保育園の園庭。
祐希とその友達のりょうクン、そして白衣姿のナオフミさんがネクタイを緩めながらキャッチボールを始めた。