ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



その低い声が聞こえてきたほうへ振り向くと、ナオフミさんの額がゆっくりぶつかってきた。
くっつき合った額からじわじわと熱が伝わってきた。



さっきまでは
“自分がナオフミさんをなんとかして引っ張っていこう”って
気合いが入っていたのに・・・


額伝いに彼の体温を感じたら
あっという間にその気合いとやらは潮がひくようにすうっとしぼんでしまった。


今から私がしようとしているコトが
大きな過ちを犯してしまうコトであるような感覚に襲われたから・・・・



『・・はい。』



そんな私の精一杯なリアクションは
なんとも腑抜けな返事だけだった。

こんな時もナオフミさんは
私の瞳を奥のほうをじっと見つめていた。



「分けて欲しい」


『・・・・・・・』


「お前の、その“頑張ろう”っていう気持ち」


ついさっき祐希を迎えに行った時は
私に“見守っていてくれればいい”と言った彼。

その時は彼のココロの傷に対する不安なんて感じなかった。


けれどもそんな彼から紡がれた少し弱気に感じられる言葉達。
それらにより私の頭の中は後悔の嵐が吹き荒れ始めた。



私がこんなところまで彼を連れて来て
今からしようとしていたコトは

彼のココロの傷をもっともっと深く傷つけてしてしまうかもしれないって・・・


さっきまではこれから自分がしようとしていたコトはこの先、避けては通れないと強く思っていたけれど

でもそんな彼を目の当たりにすると
今更だけど、ワタシ、後悔せずにはいられない



『・・・・ごめんなさい、私・・・ううっ』


謝ってすむことじゃないし、自分が悪いから泣いちゃダメだってわかっているのに
意志とは無関係に嗚咽が上がってきてしまった。

本当は彼にもうこれ以上頑張らせちゃダメなのに・・・・


「謝るな・・・ここまで連れてきてくれて感謝してるんだから。」


額を満たした彼の温かさは上半身にまで広がってきていた。
ダイスキな彼の優しい香りとともに。

私はひっくひっくと嗚咽をあげながら
彼と額同士をぴったりとくっつけたままで。

彼に対してちゃんとした謝罪の言葉も、気の利いた言葉もかけてあげることもできないまま・・・・私達の間にはしばらく静かな時間が流れた。



でも・・・・




「ここからは俺が切り拓く」


『・・・・・・・・・』



静かな時間に終止符を打ったのはやはり彼だった。
何かを決意したような語りかけで。



「自分で、な。」


『・・・・・・・・・』



ダイスキな彼の低くて穏やかな声。



「せっかくお前がくれたチャンス」


『・・・・・・・・・』


「もう逃さないから・・・」








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