ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



『あっ、あの、突然お邪魔してすみません。大変ご無沙汰しています。高梨伶菜です。あの本当にすみません。お忙しいのに・・・』


その空気が少しでも変わるといいと慌てた私はなんとも空回りな挨拶をしてしまった。



「伶菜クン、祐希クンも久しぶりだね。今日は祐希クンの検診で東京まで来たわけじゃないよね?検診は確か来月の予定だったはずだが・・」



『ええ、はい。そうですが・・・その、あの・・・』




ここまで来た理由を日詠先生に尋ねられたけれど、どう答えていいのか戸惑ってしまった。


「そうか・・・ここじゃ、なんだから・・・よかったら私の自宅へ寄るといい。尚史も今日は名古屋に戻らなくていいんだろう?」


「・・・ええ。」


「じゃあ、ゆっくりしていきなさい。」



日詠先生はそう言いながら、稼動させていたノートパソコンを閉じ、窓際に立てかけてあるポールハンガーから春物のベージュのコートの袖を腕に通し始めた。



ナオフミさんはおそらく日詠先生の多忙さを考慮して、ここで伝えておかなくてはならない必要最低限の話だけをして名古屋へ帰ろうとしていたんだと思う。
私もそのつもりだった。
結婚の許しを頂きたいという話だけをしようと。

けれどもそんな彼の計画を日詠先生はいとも簡単に見透かしていたようだった。
東京医科薬科大学長としてではなく彼の父親という立場で。


「伶菜クン、いいだろう?ゆっくりしていっても。」


『えっ、その・・なんというか・・』


日詠先生のご自宅へお邪魔するなんて
手土産がない、ない!!


まさか、ご自宅にお邪魔するなんて思っていなかったから
手土産・・・・どっかから飛んでこないかなあ

なんて願ってもそんなことあるわけないし




どうしよう、ナオフミさん・・・

ナオフミさんはどうするつもりなんだろう?



どうしていいかわからない私はそう思いながらナオフミさんと日詠先生の様子を交互に伺った。




「伶菜クンも遠慮しないで。早紀も久しぶりに顔が見たいと思ってるだろうしね。」



早紀さん、いえ早紀先生か
来月の祐希の検診でお会いする予定だったんだけど・・・

あっ・・・久しぶりに顔が見たいって・・・それ、ヤバイ///


早紀先生が小児循環器医師として祐希の担当医になっていることをナオフミさんに何も言ってないし
ナオフミさんが早紀先生のコトどう思っているかわからないからそのコトを言えなくて・・・



おそらく、ナオフミさんは今も・・・祐希の担当医は日詠先生であると思っていてしかも早紀先生と私が面識あることも多分知らないはず



ああ・・・どうしよう

手土産がないとかで困ってる場合じゃなくなっちゃったよ・・・






『ええ、まあ・・』


「じゃあ、決まり。早速帰ろう!」


私に優しく微笑みながらコートをスマートに着込んで、濃茶色の本革の鞄を持ちドアのほうへ歩き始めた日詠先生。
“夕飯の時間帯にご自宅にお邪魔するなんて・・”って言わせてもらえないぐらい日詠先生のペースになっていた。



「・・・伶菜、お邪魔することにするか?」


やや溜息混じりに私の耳元でそう問いかけたナオフミさんもそのペースに巻き込まれてしまったようで。
私も苦笑いを浮かべながらゆっくりと頷いた。






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