ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
確かに彼の言う通り
その小さなハーモニカは、精巧なつくりだけでなく楽器メーカーのロゴまでしっかりと刻まれていて。
それを手にした彼が得意気に話してくれるのもわからないわけではない。
でも、
やっぱり、私は
あの小さなヨットが入っているボトルシップはアナタとお揃いだから
だから、この合鍵にボトルシップのキーホルダーが繋がっていないのは
やっぱり寂しい
でも、こんなコト、言えない
だってその合鍵は元カレの康大クンと結婚しようとした私がアナタに返そうとしたモノだったから・・・
『・・・そうだね・・・凄く、よく出来てる。』
私は再度、自分の左手の上にあるキーホルダーに目をやり、口角をクイッと引き上げながらそれを褒めてみた。
「・・・・・・・・・・・」
それなのに、彼は黙ってしまった。
私の瞳の奥をじっと見つめながら・・・
“間もなく6時40分発ひかり327号岡山行きが発車します。危ないですからお見送りの方は白線の後ろまで下がってお待ちください”
そのアナウンスに導かれるように
なにも語らないまま、6号車のドアの敷居部分をまたいでしまった彼。
ヤダ
このまま、彼が行ってしまったら、
一生会えないわけでもないけれど
なんだか彼が凄く遠いところへ行ってしまうような気がして
ホテルで別れたときよりも
なんだか、胸が痛む
「・・・コレも渡しとくな。家帰ったら完成させといてな。」
ようやく耳にできた彼の声とともに差し出された彼の左手。
そこには、白い紙が挟まれていた。
その紙の内容を確認したくても、そんな時間はない
このドアが閉まったら、彼はもう行ってしまうのだから・・・
『・・・・・・・・・・』
それなのに、胸が痛み続けている私は何も言うことができなくて
「また、仕事が休みの日で、よさそうな日があったらそれを一緒に出しに行こうな。」
彼はそれが何かを口にはしてくれなかった。
だから、すぐに返事できなかった私。
「危ないですから下がって下さい!!! 扉、閉まります!」
そして無常にも、彼との残り僅かな時間を引き裂くような駅員さんの叫び声が嫌でも耳に入ってきて
プルプルプル・・・・・プシューッ!!!!
彼に返事をしないうちに
あっという間に彼と私の空間はドアというモノで仕切られようとしていた。