ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
病院受付に着いた
昨日、お兄ちゃんに手をひかれてここを駆け抜けたな
さすがに、お兄ちゃんが隣にいない状態でベビーカーを押してる姿じゃ、昨日みたいに注目を浴びずに済むから助かる
さ、この調子でこっそりと医局に行かなきゃ
ピンポーン!
エレベーターは医局のある2階で停まった。
ゆっくりと開くドアの隙間から、人影がないか辺りをキョロキョロ見る私。
それは昨日、あんなにもこの病院内で目立ってしまった所以の行動。
『誰もいないね。なんか芸能人みたいなコトやってバカだな、ワタシ。』
そしてエレベーターの外に誰もいないことを確認した私は背筋をピンと伸ばしてベビーカーを再び押す。
お弁当を持って祐希のベビーカーを押して医局へ向かった。
それは彼の妹だった時にやっていたと同じコト。
でももう今は、“彼の妹” という立場ではない。
医局の事務員さんに声をかけるとき
“彼のカノジョ” でいいのかな?
それとも “彼の婚約者” かな?
“彼の妻” というのはまだ気が早いよね。
だって婚姻届をまだ役所に提出してないし
なんだか考えてるだけで恥ずかしい感じ
『こんにちは・・・日詠の家族ですが、お弁』
結局、彼の妹という立場だった時と同じような名乗り方で医局の事務所の前で声を上げた私。
でも、事務員さんは不在。
そのため、私は奥野先生とか福本さんとかが通りかからないかなと辺りをキョロキョロと見回していた。
「今日は本当にスミマセンでした。」
医局事務所の奥の応接間らしき場所から聞こえてきた女性の声。
姿は見えなかったがその声はかなり弱々しく聞こえた。
「謝るのは俺にじゃないな。患者さんに対してだろ?ちゃんとお詫びはできたか?」
そんな彼女に対して、決して罵るような口調ではなく諭すような口調の男の人の声。
その声はお兄ちゃんのモノ。
その声を耳にした私はドアに身を隠しながらも中の様子を窺う。
「ハイ。スミマセン。私、やっぱりもう・・」
プルルルル、プルルル
「ゴメン、ちょっと待って。ハイ、日詠です・・・破水は?・・・わかった。今、行く。」
医局前の廊下にいた私にどんどん近づいてくる声。
「コレがきっかけで辞めるとか言うなよ。」
「だって私、向いてないんじゃ」
女の人の声も少し遅れて近づいてきていた。
相変わらず弱々しい声だけど。
「自分自身でこの仕事が向いてる向いてないを決めるのは、まだ早すぎるんじゃないか?それを自分で判断するほど経験を積んでない。だから早まるな。」
「でも・・・」
辞めるとか、この仕事が向いてる向いてないとか
そんなシビアな話題って・・・
もしかして、この女の人の声、もしかして美咲さん?!