ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「あの・・・私が・・・・」
今にも泣き崩れそうな声でそう呟いた美咲。
このままじゃ、井上さんの夫にしっかりと理解して頂ける説明なんかできそうもないと思った俺は
『多大なるご心配をおかけしていて大変申し訳ありません。奥様の体調の急変について、ご説明をさせて頂きたいのですが・・今からよろしいでしょうか?』
何を言い出すのかわからない美咲を制止しながら、井上さんの夫に説明をしたいと申し出た。
井上さんの夫は険しい表情のまま、俺の申し出を受け入れて下さったため、面談室へご案内し、そこで、電子カルテで経過を確認しながら、今後の治療方針を説明し、同意を得られた。
脳出血を発症してしまった妊婦。
お腹の中にいる胎児は無事だが、今後の状況によっては胎児も危険に晒される可能性もある。
『私達は、井上さん、そしてお腹の中にいる胎児を救うために最善を尽くします。』
この言葉を伝えることが
今、自分達ができる井上さんや彼女のご家族に伝えることができる最大限の誠意だった。
その後、俺は美咲を連れて、井上さんの病室を後にした。
その後、俺は美咲を連れて、井上さんの病室から退室し、医局の応接間に入った。
美咲の話をちゃんと聴いておこう・・・そう思って
亡くなった久保の時はちゃんと彼のフォローをしてやれなかったから
「今日は本当にスミマセンでした。」
『謝るのは俺にじゃないな。患者さんに対してだろ?ちゃんとお詫びはできたか?』
「ハイ。スミマセン。私、やっぱりもう・・」
プルルルル、プルルル
PHSか・・・タイミング悪いな
美咲が諦めようとしているような、そんな言葉を口にしそうな時にだ
でもこのDrコールに出ないわけにはいかない
『ゴメン、ちょっと待って。ハイ、日詠です・・・破水は?・・・わかった。今、行く。』
このDrコールに対応しないわけにもいかない
だから、急ぎ足で医局から出て美咲よりも先回りしたことを口にする
『コレがきっかけで辞めるとか言うなよ。』
「だって私、向いてないんじゃ」
『自分自身でこの仕事が向いてる向いてないを決めるのは、まだ早すぎるんじゃないか?それを自分で判断するほど経験を積んでない。だから早まるな。』
美咲が・・・久保のような、自分をそして周囲をも傷つけるような選択をしてしまわないように
俺の後ろを付いて来た美咲を説得しながら、病棟に繋がる廊下を歩き始めた。