ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


しかし、その途中で、医局の自分のデスクに今から診療にあたる予定の妊婦への説明同意書を置き忘れたことを想い出した俺は



『美咲、医局に忘れ物をした。取りに行ってくる。』

「今・・ですか?」

『ああ。』

「でも、今は・・・急いだほうが・・私が取りにいきましょうか?」

『自分で行く。すぐ戻るから、先にDrコールのあった405号室へ向かっていてくれ。』

「・・・わかりました。」

美咲にDrコールのあった病室へ先に行かせ、今、歩いて来た廊下を戻った。


ホントはコールのあった病室へ直行しなければならない
でも、一刻を争う状況になるかもしれないから書類は手元に置いておきたい


そう思った俺だったのに



「そんなに勢い良く振り返ったりするから・・・」


ここ最近、聞き覚えのある男の声。
見覚えも確かにある男の姿。


「ボーッとしてたでしょ?」


その男を見上げる
かなり見覚えのある女性の後ろ姿。


「何か考え事でもしてたの?大変そうだね~」


しかも馴れ馴れしい男の問いかけ
そして、俺の存在に気がついたその男の、ニヤリと浮かべた不敵な笑みに
足を止めずにはいられなかった。


なんでこんなところ・・・医局前で
この男が彼女・・・伶菜に声をかけているんだ?


しかも、なぜか大きく溜息をついた彼女に

「そんなに大きな溜息をついてるとシアワセまでどっかに行っちゃうぞ♪」

更に馴れ馴れしく語りかけるその男に
勝手にイラつきを覚えた俺。



この男には以前、自分の患者を診てもらったりしてお世話になったが
彼女に・・伶菜に近づかれることについては、話が別だ



とにかく、もうこれ以上、この男にスキにさせてはならないと思った俺は
”どうかしたか?”と声をかけようとした時、

「もう本当にほっといてく」

吐き捨てるような彼女のその言葉の途中で俺のPHSとその男のPHSがほぼ同時に鳴った。


俺のほうに一瞬だけ視線を向けてまたニヤリと笑ったその男。
一方、伶菜は俺の存在に気が付かないぐらい、その男の挙動を見つめている。


その男が醸し出す・・”今のやりとり見ていた?”・・・みたいな空気を感じずにはいられなかった俺だったが、おそらくついさっきのDrコールの催促であろうPHSを無視するわけにはいかず、彼らに背を向け再び歩き始めながら通話ボタンを押すしかなかった。

その後の彼らがどうなったがわからず、モヤモヤした気分を払拭しきれないまま・・・



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