ストロベリーキャンドル



部署内に戻り、自分のデスクに着くと、
七海が隣のデスクでハンドクリームを塗っていた。


それは可愛らしいパッケージで、バラの香りがとてもいい。
新婚旅行でフランスに行った時に買ったものらしかった。


勿論、七海から私はお土産をもらった。
それはなんの変哲もない、多分日本のどこでも買えそうな
ペンケースだったけれど。


貰ったものを身に着けないのも悪いから、
普段使いにしている。


私もお洒落に、ハンドクリームみたいなものが欲しかった。


どうしてこんなものだったの?
それをここ2週間ほど、ずっと思っている。









七海は私を、下に見ている節がある。


決して悪気はないけれど、自分よりも下に見ているから、
こんなお土産しか選ばない。


私と彼女に、差なんてないのに。





七海は気が強いから、リーダーみたいにいつも前を歩くタイプだ。


どちらかというと控えめな私は、
いつも七海の背中を追うだけ。


でもね、七海。
私はそれでもいいの。
だって、あなたの旦那様は私のものだから。



七海よりも私の方が好きなのよ。


だからほら、見て。
あなたの旦那様は私にこんなお土産をくれた。





私はカバンから小さなハート型の香水を取り出して、
これ見よがしに吹き付けた。


「あら、いい香りね」


「もらいものなの。香りがいいから気に入っちゃった」


いいでしょう?葛城さんは私にこの高価な香水をくれたわ。
それは少なからず私を特別に思ってくれているから。


葛城さんの心は私にあるの。


だから、あなたにいくら見下されようがどうってことない。
そんな些細な優越感に浸りながら、午後の仕事を始めた。


< 2 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop