ストロベリーキャンドル



七海が私のことを見下すのは前と変わらない。
そのことについては少しムッとするけれど、
結婚というワードを聞いて頭の中がぽわんとする。


結婚、誰かとするのかな。
誰と?

仁と……?


「奏音?どうした?別世界に入っちゃって」


「な、なんでもない!ちょっと考えてただけ。
 私も結婚なんて出来るのかなって」


「そうね。奏音は大人しいから、
 ぐいぐい引っ張っていってくれる人じゃないとダメかもね。
 裕也なんかも引っ張ってくれるのよ。
 まっ、アンタにお似合いなのは企画運営部の松永ってとこかな」


企画運営部の松永くんとは、
七海と私の同期で、よく一緒に喋る男性社員。


でも私は松永くんとはほとんど喋ったことがない。
なんでも決めるのが早くて、てきぱきしている。


でも、顔はそんなによくない。
よくいるがり勉タイプの男の人。


こういうところでも七海が私を見下しているということが分かる。
胸を抉られたような感覚が襲った。


「松永くんか。優しそうな人ではあるよね」


愛想笑いを返して、当たり障りのないことを言う私に、
七海は満足したように頷いた。


「狙ってみたら?応援するわよ」


「えっ、いいよ。松永くんだって、
 私なんかに好かれてもいい気しないだろうし」


「そうやって自分を卑下するの、よくないわよ。
 もっと自信持ちなさいよ」


自信持てって、あなたがその自信を粉々に砕いているんじゃない。


思わず目で訴えるのに、七海は気付かないまま。
もう彼女に何を言っても、何を訴えても意味がないと知る。


私が笑って誤魔化すと、始業時間になった。


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