ストロベリーキャンドル



「仁は、忙しいながらも私のために
 時間を使ってくれていましたから、十分幸せです」


「そうか。一ノ瀬くん、すまない。
 私がアメリカに連れてきてしまったから、こんなことに……」


「いいえ。こんな大きな仕事を任せてくれるなんて光栄です。
 仁は、部長にとても愛されているんだなって」


少しはにかんでみせると、武田部長が笑った。


なんだかとても不思議。
以前お勤めしていた時は武田部長とは
そんなに接点がなくて話さなかったのに、
今は不思議と普通に話せている。


もっと怖い人なのかと思っていたのだけれど、
そんなことはなかった。
部下を思いやる優しい部長さんだったんだ。


「神崎くんが、早く目覚めるといいんだが」


「そうですね……」


缶珈琲をテーブルに置いて、仁の手を握りしめた。
きゅっと、優しく握ると、彼の生きている証がある。


温かい。
それだけで安心する……。


「あ……えっ?」


ふと、仁の手を見つめた。


見間違い?
いや、確かに、動いた?


今、ピクッて、
私の手を握り返したような……。


「仁」


名前を呼ぶと、また……手が動いた。


「一ノ瀬くん?」


「部長!今、仁が……仁が!」


「えっ?」


武田部長が立ち上がって、眉根を寄せて仁を見た。
私も仁の顔を見つめる。
微かに眉が動いて、それから……。


「仁……」


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