新妻はエリート外科医に愛されまくり
「各務先生、いつも浩太をご心配くださり、ありがとうございます」


『浩太』君の母親だろう。
彼女は背の高い颯斗を見上げて、顔を綻ばせた。


「……ハヤトの、患者だよ」


レイさんが静かに呟くのを耳で拾って、私は彼に顔を向けた。


「ハヅキ。ファロー四徴症って病気、知っているかい?」


横目で問われ、一度頷いて返す。


「名前だけ。詳しくはありませんが……」


日本で医局秘書を務めていた時、ドクターたちの研究論文の資料を探すことも多く、その病名は頭に残っていた。
確か、チアノーゼや心臓超音波検査などから、多くの場合は乳児期に判明する、先天性の心臓疾患だ。
早期に治療しないと、年数を経るにつれて生存率が低下する。
まだ幼いうちに、手術が必要になる病気だ。


「一歳になる前に、日本でハヤトが心内修復術を執刀した。しかし、コウタは肺動脈の狭窄が大きく、二度目のオペが必要でね。次のオペもハヤトに頼みたいと、この春家族で渡米してきた」


レイさんは大きく足を組み上げ、少し先で談笑する颯斗たち三人を眺めながら、説明してくれる。


私は無意識にゴクッと唾を飲み、もう一度颯斗の方に顔を向けた。
浩太君に見せる、慈しみ、愛おしむような、優しい微笑み。
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