手招きする闇
11 リビング
  
俊樹「犯人、早く捕まんねーかな。俺、帰るに帰れないし」
理子「えっ? 帰るの?」
俊樹「何? 俺に泊まって行けっていうの?」
理子「だって、今日私一人なのよ。か弱き女性を見捨てる気?」
俊樹「お前、そういうキャラじゃねーだろ?」
理子「自分でもわかってるわよ。私ってこんなキャラじゃない事は。でも、近くに日本刀持った男がいるのよ? 切られたら死んじゃうもん」
俊樹「まあ、確かに、日本刀は怖いよな。わかったよ。犯人が捕まるまで居てやるよ。それに俺だって外に出たら襲われるかもしれねーしな」
理子「早く捕まらなかな・・・」
 
 そこへ電話のベル。ピクッと身体が動く理子。    
 
理子「はい、もしもし」
     
 電話の相手は母親だった。
 旅先で事件の事を知り、娘の安否を確認する為のものだった。
  
理子「あっ、お母さん? うん私は大丈夫。ちゃんと鍵も閉めたから。えっ? 今? 俊樹が来てる」
       
 正直に答える理子を呆れたように見る。
  
理子「犯人が捕まるまで一緒に居てくれるって。あっ、でもお父さんには内緒にね。うんわかった。何かあったら電話する」
      
 電話を切る理子。
  
俊樹「お前、正直過ぎるんだよ。彩萌が来てるって言えよ」
理子「女の子同士だったら余計に心配すると思って」
俊樹「男と二人だと聞いた方が心配するだろうが。別の意味で」
理子「・・・」
俊樹「じ、冗談だよ。俺何にもしねーし」
理子「・・・」
俊樹「理子?」
   
 突然、俊樹に抱きつく理子。
 驚いて固まる俊樹。
  
理子「ごめん。今日の私どうかしてる。何か、胸が苦しい。身体の中に別の私が居て、外に出ようとしてるみたい」
俊樹「理子」
理子「今まで俊樹の事、男として見た事なかったけど、もう無理みたい」
俊樹「えっ?」
理子「ごめん、やっぱり変だよね」

 理子、俊樹から離れて後ろを向く。
  
理子「こんなの柄に合ってないよね。やっぱり今日の私変だわ。誰か乗り移ったのかも」
       
 そんな理子を後ろから抱きしめる俊樹。
  
理子「俊樹?」
俊樹「俺さ、女の子から告白されるのには慣れてるんだけど、自分で誰かに告白した事って無いんだよね」
理子「それって、自慢?」
俊樹「ちげーし。俺、今日まで自分の気持ちに気づいてなかった。告白なんてしなくても、お前はいつも傍にいたし、このまま仲良くやっていけたらいいと思ってた。でもさ、今日哲司から言われたんだ。お前の事が好きなんだろうって。そして、あいつもお前の事が好きだったって聞かされたら、急に何かお前に対する気持ちが表に出てきてしまって、それでもこれまでの関係を崩したくなくて、無理にお前を傷つけるような事を言ってしまった」  
理子「それじゃ、私の事が好きな二人って、俊樹と哲司だったの?」
俊樹「まあな」
      
 理子、俊樹の腕を解いて彼の方に向き直る。

理子「俊樹、私あなたの事が好き」
俊樹「理子・・・」
      
 二人の唇が重なる。初めてのキス。
 テレビから再び緊迫した記者の声。
 
記者「新たな犯人が逮捕されました。残る逃走者は一名。皆さん家の戸締りをして、絶対外出しないで下さい」
理子「俊樹のお母さん、何時に帰って来るの?」
俊樹「今日は遅番だから夜中の十二時を過ぎると思う」
理子「ねえ、このまま犯人が捕まらなかったら、おばさん危ないよ。電話してみて」
俊樹「そうだな」
       
 俊樹、鞄から携帯電話を取り出すと、母親に電話する。
  
俊樹「ああ、母さん? えっ? ああ、知ってた? そうなんだ。だから母さんの事が心配で。今? ううん、うちじゃない。友達んち。母さん、俺迎えに行こうか? そう。わかった。それじゃ俺も犯人が捕まるまでここにいるから。うん、また電話する」
  
 俊樹、電話を切る。
  
理子「おばさん、何て?」
俊樹「職場に泊まるって」
理子「そう。それなら安心」
俊樹「それでさ、俺も今日ここに泊まっていい?」
理子「えっ?」
俊樹「だって、今外に出て殺されたらどうするんだよ」
理子「それはそうだけど・・・」
俊樹「俺から襲われるんじゃないかって心配?」
理子「そんなんじゃないけど」
俊樹「大丈夫。今日はキスだけで我慢する。お互いの気持ちに気づいたばかりだしね。だからゆっくり付き合って行こう」
理子「うん」
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