美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
翌日、瑠花を研究開発室の入る支社ビルに送り届けたあと、朔也は本社ビルに赴いた。

向かうは社長室。

つまり、朔也の父:穂積賢人のいる部屋だ。

その隣には、副社長である朔也の叔父:穂積直人もいた。

「おお、朔也。週末は大変だったな。長野まで足を運んで事態を収集するとは大したもんだ」

昨日まで中国へ出張していた直人は他人事のように笑って言った。

呑気なこのおっさんは、女の尻しか追いかけていないただのスケベシジイ。

仕事もせず、情報収集という名のゴルフと接待に明け暮れている。

その悪行三昧のおこぼれにあずかっているのが狭間部長と但馬課長、そして副社長夫人である穂積浅子で構成する狭間グループの面々だ。

「ええ、いつまで他人の尻拭いをしなければならないのかと辟易していますが、長野の工場長にはお世話になっているので迷惑はかけられません」

そんな朔也の嫌みは通じることもなく、

「おお、そうか、そんな社のお荷物はさっさとクビにするに限るぞ。甘い顔を見せてはいかん」

と、意図せぬ方向へいつものようにスルーされる。

大きなお腹をつき出しながら、秘書が運んできた大福を頬張る姿は、豆狸そのものだ。

「へえ、副社長からそんなご意見が聞けるとは思いませんでした。気が合いますね?」

「そうだろう、そうだろう。私は人を見る目だけはあるんだぞ?君も早く家庭をもって落ち着けば私のような人格者になれるだろうがな。しかし相手もいないようじゃ無理だろう。どうだ?私がよいところのお嬢さんを紹介してやろうか?」

どうせ権力に物を言わせて、愛妾として囲っている女性の誰かをあてがおうという魂胆なのだろう。

゛そんなものにのるか゛

軽蔑の視線を浴びせつつも本題に戻らねばならない。

「間に合っていますので結構です。それより、副社長、今回のミス、どなたが関わっているかご存知ですか?」

「中国にいたのに知るわけないだろう?どうせ、営業の藤川辺りがやらかしたんじゃないか?あんな奴はさっさとクビにしなさい、クビ」

直人の言葉に、朔也はニヤリと口元を歪める。

「おかしいですね?なにも知らないはずの副社長が、ピンポイントで容疑者の名をだすとは・・・何か心当たりでも?」

゛さあ、デカイ尻尾を出せ゛

朔也の鬼退治ならぬ獣退治が始まる。
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