美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「お取り込み中失礼しますが、今は藤川係長に不正があったかなかったかの話ではありませんでしたか?」

その場を凍らすような朔也の低音ボイスに、その場が静まり返った。

すると、それまで一言も発しなかった社長の賢人が、

「論点は3つあるな。一つ目は、今回の長野工場発注ミスに藤川係長が絡んでいるのかという点。二つ目は朔也と心晴さんが本当に婚約しているのかという点。そして最後に、直人のセクハラ疑惑だ」

と静かに告げた。

「即座に否定できる点が一つあります。私にも心晴さんにもお互いに愛する人がいる。だから婚約話なんて初めから存在しません」

「私も同意します」

確固たる信念で頷く二人に、賢人が納得したように微笑む。

「そうだな。私も朔也からそんな話を聞いたこともないし結婚は朔也の意思に任せている。二人がそう言うのなら間違いないのだろう」

あっさりと頷いた賢人に対し、狭間部長は不服そうに

「しかし、社長は心晴のことを嫁にしたいくらい優秀で可愛らしいと誉めていたではありませんか。だからこそ私も心晴を朔也君の嫁にと・・・」

と言って反論する意志を隠そうともしなかった。

「確かに心晴さんは優秀な広報課のエースだ。嫁にしたいと言ったのは、私が若くて独身だったならって意味で、別に朔也の嫁にとは言っていないよ」

あわよくば次期社長候補の直人と、幹部候補の朔也を両脇に携え、陰で手を引いて天下を取ろうとでも考えていたのだろう。

゛どうせそんなことだろうと思っていた゛

と朔也は侮蔑的な表情を浮かべて舌打ちをした。
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