初恋エモ


クノさんには「音楽には関係ないことなので、黙秘します」と伝え、会話を終わらせた。

が、いいことを思いついた。


「そうだ、葉山さんが不在の時は、ミハラさんにサポートでドラムに入ってもらうのはどうですか? そしたらライブの本数も増やせますし」


葉山さんのドラムには負けるけれど、一応ミハラさんもドラムは叩ける。

急なライブの誘いがあった時や、出番が短いライブの時は、代わりに叩いてもらえばいいのでは?


しかし、クノさんは首を縦に振らない。

ミハラのドラムじゃクオリティが落ちる、来てくれたお客さんを満足させられない、と。


「ミハラさん、練習すれば上手くなると思うんですけど……」


中学の頃に見たライブでも、危うい部分はあったものの、下手というわけではなかった。

むしろ他のバンドに比べたらよく叩けていた。


「あいつは昔からそれができねーんだよ。何でもすぐできるけど、極めることができない。器用貧乏ってやつ」


ミハラさんは小学生の頃、クノさんと一緒の野球チームにいたらしい。

しかし中学の野球部は練習が厳しいと聞き、サッカー部に入った。そして、高校からはバスケ部。

もちろん、サッカーもバスケも全てスタメン。すごいなあ。


「どこでも活躍できるなんて、逆に尊敬しますけどね」


その話を聞いて、ミハラさんはクノさんとは真逆だと思った。

クノさんは一つのことに夢中になるタイプだ。野球も、音楽も。

どっちがいいのかは一概には言えないけれど。


など、考えごとをしていたが、なぜかクノさんに見つめられていた。

なんですか? と聞くと……。


「とりあえず、お前はクソ真面目すぎてバンドマンとしての魅力が足りねーんだよ。さっさとミハラとキスでも何でもして色気をアップさせろ!」


「はああ?」


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