初恋エモ

「嬉しいんですけど、葉山さん忙しくて透明ガールが少し停滞してます」

「あー、だからクノがあんま元気ないんだ」


透明ガールのMVは順調に再生が伸びている。

だからこそ、もっとライブをしてCDを売って、バンドに勢いをつけたい。でもできない。

クノさんは最近もどかしい気持ちでいるみたい。


「あ、スクリーミンズも新しいMV出てます!」


私たちのMVの関連動画としてスクリーミンズの新しいMVがあった。

さっそくイヤホンをして聴くことに。


初めての全国発売。どんなかっこいい曲か期待に胸を膨らませた。が。


――ん?


感じたのは、これ本当にスクリーミンズ? という疑問だった。


ボーカルは叫ぶように歌うイメージなのに、綺麗にメロディーをなぞっている。

キャッチーで分かりやすいサビ、ノイズが減ったギター。手数が減ったドラム。

全国デビューだし、万人に受けやすいようにしたのかな。

でも、その分有名バンドの音に似ている感じがした。


「どう?」

「うーん。まだこの曲ライブで見てないし、何とも言えないです」


動画の公開は昨日の夜中。再生回数はそこそこ。

きっと、これから伸びるんだろうな。とは思ったが。

昔からのスクリーミンズファンは受け入れるのだろうか。そんな不安が残る。


なにしろ、葉山さんは納得してこの曲のドラムを叩いたのだろうか。

正確さの中にある荒々しさ、という彼の長所が生かされていない。


「んー」


静かにうなり、首をかしげて考えを巡らせたが、はっと我に返った。

今は目の前にミハラさんがいる。


ズズッとジュースを吸い、気を落ち着かせた。


「ど、どうしたんですか?」


ミハラさんは私の様子を見てなぜか笑っていた。


「ごめん、美透ちゃん真剣に考えているのに。なんか見とれちゃってた」

「へ?」

「時間大丈夫? そろそろ行こうか」


やっぱりミハラさんはいい人だけど悪い人だ!

冗談っぽく、さらりと甘いことを言う。


聞かなかったことにしよう。そうしよう。そうしよう。


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