初恋エモ


そして、打ち上げでは……。


「売れなきゃ容赦しませんよ。んで、俺らがすぐ追い越しますんで」

「調子乗んなクソガキ。いつかでっかいステージでピーピー泣かせたるわ」


なぜかクノさんはスクリーミンズの金髪ボーカルとおでこをくっつけ合いながら言い合いをしている。


「あの二人、似てるんだよね。絶対仲良くなると思ったわ~」


葉山さんは楽しそうにその様子を眺めていた。

いや、めちゃくちゃケンカしてますけど。


他のバンドやお客さんへの挨拶回りを終えた後、葉山さんは私の隣に座った。


「いつ東京、引っ越すんですか?」

「来月には。新しいギターとベースも探さなきゃだし」

「彼女さんはどうするんですか?」

「遠距離になるね~。ま、しょうがないね」


ビールを片手にした葉山さんにいろいろ聞くことができた。

ツアーのこと、プライベートのこと、そして、これからのこと。


心に抱いていた疑問は聞かないでおいた。

葉山さんは納得してスクリーミンズのドラムを叩いてるんですか? って。


「あ~もっと売れなきゃな~」


べろんべろんになった葉山さんがつぶやいた言葉に全て集約されていると思ったから。


彼は音楽で生活するために、楽しくドラムを叩ける透明ガールではなく、売れるために変化していくスクリーミンズとして生きていくことを選んだんだ。


もっと話していたかったけれど、帰る時間になったため、クノさんとライブハウスを後にした。

スクリーミンズには、きっとまたどこかで会えるだろうし。

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