初恋エモ

3






ライブ審査まであと3週間。残りのライブはあと一本。

前々から予定を入れていた、いつものライブハウスでの対バン形式のライブだ。


地方のハコ、かつ出演時間は30分だけなのに、最終選考に残ったからか、チケット予約の連絡が飛ぶように来た。

他県から来るという人もいた。


きっと『ブルー/イエロー』のMVやアップした音源によって、私たちを生で見たいという人が増えたんだ。


本番前、フロアをざっと眺める。


翠さんや穂波さん、学校や中学時代の友達をはじめ、いつも来てくれるみんなの姿が見えたものの。

それ以上に、フロアを埋め尽くしているのは、初めて見た人たち。


学生風の若者から大人まで。いろんな人が、準備中のステージを眺めながら、私たちのライブを待ってくれていた。


「今までで、一番集まってるかもしれないです」


楽屋に戻り、二人にそう伝えると、


「おもしれーじゃん」


ギターのチューニングを整えながら、クノさんはニヤリと笑う。


「…………」


ミハラさんは練習用パットをひたすら叩いている。

耳にはイヤホン。繋がれたスマホには、音楽じゃなくてメトロノームのアプリが映し出されている。


ちなみにこのパットはクノさんがプレゼントしたらしい。


「ありがとうございましたー! 最後まで楽しんでいってください」


前のバンドの演奏が終わり、まばらな拍手が壁越しに聞こえた。


そろそろ行くぞ、とクノさんが合図し、ミハラさんははっと顔を上げた。

驚いた様子でイヤホンを外し、椅子の足につっかえながら立ち上がる。


ミハラさんは珍しくテンパっている。

そりゃそうか。透明ガールとして初めてのライブだ。


クノさんと顔を見合わせてから、二人でミハラさんを引っ張った。

戸惑う彼に笑顔を見せると、ようやく軽く笑ってくれた。


そして、


「全力出すぞ!」「おー!」


三人で円陣を組み、気合を入れてからステージへ向かった。

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