初恋エモ



「あれミハラさん? うっそまじ?」

「あのドラム、サポート? 誰?」「てか、すげーイケメンじゃん」


フロアからいろんな声が聞こえる中で、始まったライブ。


入りが少しずれたものの、曲は順調に進んでいく。

お客さんの手も上がり始める。


曲が終わるたびに歓声と拍手が空間に響き、少しずつ後ろの方まで広がっていく。


ミハラさんはきっと、相当な努力をしたのだ。


時々音量のばらつきはあるものの、リズムが安定したため、私も音を合わせやすくなった。

クノさんも、スタジオの時より曲のリズムをミハラさんにゆだねているように思えた。


ただ、フロアには腕組みをして、無表情のままステージを眺めている人もいる。

まだ様子見、ということだろうか。


最後は珍しくクノさんがドラムセットに寄っていき、一声吠えた後、ミハラさんに目で合図する。

連打されていたスネアドラムのテンポが落とされていく。

もちろん私も前のめりになり、タイミングを逃さないよう集中する。


一瞬だけ無音の空間を作ってから。


盛り上がっている人、無表情で眺めている人、拳をあげている人。

この場にいる全員に向けて音をぶちまけた。


三人のタイミングがぴったり合い、テンションが上がった私はベース鳴らした勢いのまま後ろにすっ転ぶ。

クノさんはダイブしたらしく、お客さんともみくちゃになりながらギターを鳴らす。


ミハラさんは私たちの様子を交互に見て、おろおろした後。

思いっきりかっこいい顔で笑った。


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