初恋エモ


そのまま彼を連行し、クノさんの家へ。


「スタジオ、行かなくてごめん……」


ミハラさんは謝ったなり、黙り込んでしまう。

今日が練習日であることを忘れてはいなかったらしい。


「もう諦めたんだ」


買ってきたコンビニ弁当を食べながら、クノさんはつぶやく。


「やっぱり俺……ドラムは遊びで叩くくらいがいいかなって」

「あんな練習したのに?」

「いや、練習って。二人ほどはしてないよ」

「お前にしてはやった方じゃねーの?」


もぐもぐしながら、ミハラさんの弱々しい言葉をはねのけるクノさん。

言い方が怖い怖い。これじゃ話が進まないですって。


私はクノさんを押しのけ、ミハラさんの正面に座った。


「何か、あったんですか?」


そう聞き、うつろな彼の目を見つめる。


「…………」


ミハラさんは視線を逸らし、黙り込んだ。


どらくらい無言だっただろう。

しびれを切らして何かを言いかけるクノさんを肘で制しながら、彼の言葉を待った。


ミハラさんが口を開いたのは、クノさんが弁当を完食した頃。


「俺のドラムは、透明ガールには相応しくない」


彼は膝に置いた手をぎゅっと握り、下を向いた。


「私たちはそうは思ってないですけど……」

「いろんな人が言ってる。ドラムが弱いとか、前のドラムの方が良かったとか」

「え……?」


私は首をかしげた。


先日のライブは、全員を盛り上げることはできなかったけれど、それなりに手ごたえはあった。

新しいお客さんにCDは売れたし、SNSのフォロワーも増えた。

あの厳しい店長も「イケメンを入れるとか、お前も意外と戦略的だな」とこそっとクノさんに言ったくらい。


誰もドラムの腕には言及していない。

むしろ、あの葉山さんが作ったドラムを短期間で覚えて、最後まで叩ききったことは、すごいことだと思う。


ミハラさんが言う、いろんな人って誰なのだろう。

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