初恋エモ

一人で考え込んでいると、「お前、エゴサくらいしろよ」というクノさんの呆れた声とともに、彼のスマホが手渡された。


その画面には『透明ガール』で検索されたSNS。

書き込みを下へスクロールする。


「あ……」


『透明ガール見てきた。期待していた割にはイマイチ。特にドラムが弱い』

『透明ガールのドラム変わってた。葉山さんの方が良かった』


あの日来ていたらしいお客さん、またライブ動画を撮ってアップしたお客さんがいて、それへの返信とか。

否定的な書き込みが目に押し寄せてきた。


「美透ちゃん、見たでしょ? 俺だと力不足なんだよ。俺のせいで透明ガールの評判が悪くなってる」


その弱々しい声から、心の痛みが伝わってくる。

昼休みや予備校行く時間を削ってあんなに練習したのに、全部投げ出すほど彼は傷ついたんだ。


と、私まで気持ちが落ちてきた時。


「はぁ~」


クノさんの深いため息が聞こえ、しゃきっと背筋が伸びた。


「なんで悪い意見ばっか真面目に受け入れるんだよ」


珍しくクノさんが頭を抱えている。


そうだ。ネガティブな意見により、私も肝心なことを忘れていた。

もう一度、スマホを確認し書き込みをチェックする。


ミハラさんの話により、数ある書き込みから目に入ったものだけを受け取ってしまった。


『透明ガールよかった! 新ドラムもいい感じ!』

『絶対透明ガールフェス出てほしい!』


それ以上に多いのは、肯定的な意見なのに。


「お前は葉山さんじゃねーし、違ってていいんだよ。お前なりのドラムを自信もって叩けよ」


呆れたようにそう言い、クノさんはギターを手にした。

そして、私たちに背中を向けて、ギターを鳴らし始めた。


時々歌詞を口ずさみながら、手元では複雑なアルペジオが奏でられる。

音が途切れた部分があれば、そこに戻り、何度も同じフレーズを繰り返す。


ミハラさんはその様子をぼーっと眺めていた。


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