初恋エモ
☆
それからはミハラさんも吹っ切れたようで、三人で音楽漬けの日々を送った。
スタジオで練習して、録った音をクノさんの家でチェックして、学校に行って、またスタジオに入って、クノさんの家でチェックして……繰り返し。
「この曲のドラム、いーじゃん」
スタジオで録った動画を見ている時、ふとクノさんがつぶやいた。
「お客さんが手を挙げたくなる感じにしたっていうか。こんな感じでいいかな?」
ミハラさんはぶつぶつそう言い、見えないドラムセットを叩く。
Aメロにもっとハイハット入れてもいいんじゃね?
あーなるほど。軽く刻んでみようかな。
など、アイデアを出し合う二人。
その様子を見て思った。
一度は折れかけたけれど、ミハラさんを信じてよかった。
おかげでコンテスト用に作った新曲もほぼ完成した。
それぞれ練習したり、前のライブ映像を見たりして時間を過ごしていると、突然クノさんは後ろに倒れた。
「……腹減った」
ぐーぐーと彼からお腹の音がした。
「あ……私、スーパー行ってきましょうか?」
そう言って立ち上がると、「俺も行くわ」とクノさんも立ち上がり、「じゃあ俺も」とミハラさんも続いた。
「寒い~」
私のバイト先でもあるスーパーはここから近いため、自転車ではなく徒歩で行くことに。
月日はあっという間に過ぎ、もう11月。
空は明かりを失っていて、夕暮れ時の冷たい風が私たちを包み込む。
風よけになってもらいたくて、私はクノさんとミハラさんの後ろを進んだ。
「この時間、まだ惣菜安くならねーんだよ」
「ずっと思ってたけど、惣菜とか弁当買うより自分で作った方が安くなるって」
「ダルい。カセットコンロしかねーし」
二人の話し声が風にのって私にも届いてくる。
食べ物の話から、筋トレの話、共通の友達の話へ。
今は音楽じゃなくて普通の男子高校生の会話をしている。不思議な感じがした。
一人でニヤけていると、突然、クノさんが振り返った。
「美透、鍋作って。めっちゃ肉入ってるやつ」
別にいいですけど。
人をお手伝いさんみたいに言わないでくださいよ。