初恋エモ





それからはミハラさんも吹っ切れたようで、三人で音楽漬けの日々を送った。

スタジオで練習して、録った音をクノさんの家でチェックして、学校に行って、またスタジオに入って、クノさんの家でチェックして……繰り返し。


「この曲のドラム、いーじゃん」


スタジオで録った動画を見ている時、ふとクノさんがつぶやいた。


「お客さんが手を挙げたくなる感じにしたっていうか。こんな感じでいいかな?」


ミハラさんはぶつぶつそう言い、見えないドラムセットを叩く。


Aメロにもっとハイハット入れてもいいんじゃね?

あーなるほど。軽く刻んでみようかな。


など、アイデアを出し合う二人。

その様子を見て思った。


一度は折れかけたけれど、ミハラさんを信じてよかった。

おかげでコンテスト用に作った新曲もほぼ完成した。


それぞれ練習したり、前のライブ映像を見たりして時間を過ごしていると、突然クノさんは後ろに倒れた。


「……腹減った」


ぐーぐーと彼からお腹の音がした。


「あ……私、スーパー行ってきましょうか?」


そう言って立ち上がると、「俺も行くわ」とクノさんも立ち上がり、「じゃあ俺も」とミハラさんも続いた。


「寒い~」


私のバイト先でもあるスーパーはここから近いため、自転車ではなく徒歩で行くことに。


月日はあっという間に過ぎ、もう11月。

空は明かりを失っていて、夕暮れ時の冷たい風が私たちを包み込む。

風よけになってもらいたくて、私はクノさんとミハラさんの後ろを進んだ。


「この時間、まだ惣菜安くならねーんだよ」

「ずっと思ってたけど、惣菜とか弁当買うより自分で作った方が安くなるって」

「ダルい。カセットコンロしかねーし」


二人の話し声が風にのって私にも届いてくる。

食べ物の話から、筋トレの話、共通の友達の話へ。

今は音楽じゃなくて普通の男子高校生の会話をしている。不思議な感じがした。


一人でニヤけていると、突然、クノさんが振り返った。


「美透、鍋作って。めっちゃ肉入ってるやつ」


別にいいですけど。

人をお手伝いさんみたいに言わないでくださいよ。

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