初恋エモ


「大人に認められたくてやってるわけじゃねーのに、認められるためにやってるよな。俺ら」


彼はそう続け、乾いた笑いを発した。


「…………」


私はその言葉に違和感を覚えた。

確かに、結果を出さなければ、母にバンドを続けることを許してもらえない。


だけど、それ以上に私には音楽をやる理由がある。


「私はクノさんの音楽をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」

「…………」

「だからバンドを続けたいんです」


きっとクノさんだってそうだ。

自分の音楽を表現して、日々つのっていく感情をぶちまけて、そうやって生きていきたいはず。


カツン、とコーヒー缶が階段に置かれた。


「うるせーな。分かってるよ……」


座ったまま腕に突っ伏したクノさんの指は、軽く震えていた。


そんな彼の様子を見ていると、逆に私が冷静でいなきゃと思った。


もちろん、今日のためにアレンジを練ったり、ミスしないよう気をつけながら練習したりと、たくさんの準備を進めてきた。

走りがちなクノさんの歌とギターもだいぶ修正できた。


だけど、フェス出場はゴールじゃない。

これから音楽で生きていくための、あくまでも一つのステップだ。


「実家と縁切って、お前なしでやってけんのかな、俺」

「え……」

「悪い、ちょっと一人にさせて」


ぼそりと発した言葉は聞こえないふりをした。

そうしないと私の心が乱れてしまいそうだったから。


「クノさん、今日はいつも通りやりましょうね」


そう伝えると、彼は顔を上げ、弱々しい目で私を見つめた。


「ミスしないようにとか、走らないようにとか、そういうのやめましょう。コンテストのためにいい子ちゃんになるなんて、透明ガールらしくないです! じゃあ!」

「いてっ」


彼の口元のあざをマスク越しに突いてから、私は立ち上がった。


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