初恋エモ





三年生は自由登校期間のため、東京でスクリーミンズのサポートを終えたクノさんはリゾート施設での長期バイトに行ってしまったらしい。


『クノ、明日帰ってくるらしいよ』


ミハラさんからそう連絡がきたのは、なんと二月の終わり。


遅い……どんだけ待ったことか。

たっぷりお金を稼いできたんだろうし、たまには美味しいものごちそうしてほしいくらいだ。


バイトを終え、久々にクノさんの家へ自転車を走らせる。

『いる』札がかけられているため、ドアを開けると、背中を向けてギターを弾くクノさんがいた。


いつも通りの光景に嬉しくなった。


「やっと帰ってきましたね……」

「あー、美透か」 


変わったのは、部屋にギターが一本増えたことと、髪の毛にパーマがかかったこと。


「なんか、大人っぽくなりました?」


そう聞くと、「なってねーよ」と一蹴された。


クノさんは東京でスクリーミンズの金髪ボーカルさんの家に居候をしていたとのこと。

そのため、このギターを使えだの、高校生に見えない見た目にしろだの、様々なスパルタ指導を受けたらしい。


ご飯をおごってもらおうと思い、「クノさん、私お腹すきました」と伝えたが。


「はい、これやる」


そう言われ、もらったのは温泉まんじゅう。はい、ありがとうございます……。


彼の手により、ギターから温かい音色が奏でられる。

新しい曲かな。

しばらくその音楽に耳を傾けてから、彼に話しかけた。


「そのまま東京に住み着くと思ってました」

「一応、卒業証書くらい貰おうと思って」


へぇ、とつぶやきクノさんを見つめると。

彼はギターをスタンドに置き、ドアへ向かっていった。


「散歩する。ついてきて」


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