初恋エモ


動画サイトを開き、好きな音楽を耳に入れる。

イントロが終わり、歌が始まる。


「美透ー! お風呂入りなさーい!」

「はーい、ちょっと宿題やってから入る!」


母の声に邪魔され、イラッとしながらも再び音楽の世界へ戻った。


切ないメロディーに激しいドラム、爆音のギター。

もうすぐ盛り上がる最後のサビだ。私の好きなところ。


しかし、間奏が終わると同時に音が小さくなった。


『体育祭の後、ソフトボールチームで集まんない?』

『いいね! 俺いい店知ってる!』

『ドリンクバーあるとこがいい』


ラインの通知が連続して鳴り、音楽が大きくなったり小さくなったりを繰り返す。


せっかく盛り上がる部分なのに、また邪魔が入った。

仕方なく動画サイトを閉じ、私もスタンプで返事をする。


「本当うるさい。みんな何なの?」


真緒に聞こえないよう、頭から布団をかぶりつぶやいた。


ラインの会話はすぐ終わったが、再生を押す気力がわかず無音のまま布団にくるまっていた。


――ピポン!


もう一度、通知音が鳴る。


さっき会話終わったじゃん。まだ続いてるの?

かといって通知オフにする勇気もない。


ため息をつきながらスマホに手を伸ばした。


『曲作った。これにベースラインつけて』


メッセージはクノさんからだった。


気まずさがこみあげてくる。

この前怒られて以来、一緒に音楽を奏でる機会はなかった。

家に行ってもいなかったり、彼女が来ると言って追い出されたり。

一人で練習をしても、最近は集中できていない。


全然前に進んでいる感じがしない。

音楽のことも、自分のことも。


音源サイトからダウンロードし、再生をタップした。


「え」


曲調がいつもと違う。


再生を押すとすぐ、鋭いギターの和音が押し寄せてきた。

アコースティックギターでの弾き語りじゃなくて、今回はエレキギターで録ったらしい。

パソコンで打ち込んだのか、一定のリズムでドラムの音も入っていた。

驚いたのは音だけじゃない、歌詞も。


「うぅ……」


涙がこみあげてくる。

声が出ないよう枕に顔をうずめる。


何なの。

何でクノさんはこんな苦しい気持ちにさせる曲を作れるの。

意味わかんない。


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