初恋エモ





先生に呼び出されたと穂波さんに伝え、昼休みは立ち入り禁止の階段へ向かった。

最初にウェーブ先輩との言い合いを目撃したあの場所。


放課後になる前にもう一回、一人でクノさんの曲が聴きたくなったから。


廊下を曲がり、理科室の並びへ。目的地はこの先だ。

しかし、


「うっそ! マジ?」「よっしゃ逃亡~!」


二年の男女が校舎でケイドロらしきことをしていた。

普段、この廊下には生徒の気配がないのに、今日はバタバタと足音がせわしなく鳴っていた。


理科室が牢屋にされているらしく、男女が勢いよく飛び出してくる。


「おっと! ごめん、って美透ちゃんじゃん! じゃあね」


その中にミハラさんもいて、ぶつかりそうになった。

爽やかな笑顔を見せてから、ダッシュでどこかへ行ってしまった。


落ち着かないので再び教室に戻ることに。


「待て待てー!」「やっべ!」


途中、クノさんが女子に追いかけられている様子も見かけた。



『冷たい頬に湿った土 口の中は鉄の味
汚い笑い声に踏みつぶされ 自分の弱さを呪った
嫌われることには慣れているのに
慣れているはずなのに』



友達がいて、彼女もいて、女子にモテて。

いろいろ遊んでいて、楽しそうで。


あの歌詞はなぜ彼から発せられたのだろう。

私はまだクノさん自身のことを知らない。


ただ、一つはっきりと分かる。

この曲はバンドでやるための音楽だ。

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