初恋エモ
☆
先生に呼び出されたと穂波さんに伝え、昼休みは立ち入り禁止の階段へ向かった。
最初にウェーブ先輩との言い合いを目撃したあの場所。
放課後になる前にもう一回、一人でクノさんの曲が聴きたくなったから。
廊下を曲がり、理科室の並びへ。目的地はこの先だ。
しかし、
「うっそ! マジ?」「よっしゃ逃亡~!」
二年の男女が校舎でケイドロらしきことをしていた。
普段、この廊下には生徒の気配がないのに、今日はバタバタと足音がせわしなく鳴っていた。
理科室が牢屋にされているらしく、男女が勢いよく飛び出してくる。
「おっと! ごめん、って美透ちゃんじゃん! じゃあね」
その中にミハラさんもいて、ぶつかりそうになった。
爽やかな笑顔を見せてから、ダッシュでどこかへ行ってしまった。
落ち着かないので再び教室に戻ることに。
「待て待てー!」「やっべ!」
途中、クノさんが女子に追いかけられている様子も見かけた。
『冷たい頬に湿った土 口の中は鉄の味
汚い笑い声に踏みつぶされ 自分の弱さを呪った
嫌われることには慣れているのに
慣れているはずなのに』
友達がいて、彼女もいて、女子にモテて。
いろいろ遊んでいて、楽しそうで。
あの歌詞はなぜ彼から発せられたのだろう。
私はまだクノさん自身のことを知らない。
ただ、一つはっきりと分かる。
この曲はバンドでやるための音楽だ。