初恋エモ
「えーっと」
ギターの音をただベースでなぞるのは違うと思った。
ピックを上下させて弦を揺らしても、勢いが足りない。
上から弦を叩くように奏でると、疾走感が増した。
技量が追い付いていないのが悔しい。
だけど、それよりもこの曲をクノさんはどうアレンジしたいか、デモ音源からくみ取りたかった。
クノさんは今日バイトとのこと。
一人彼の空間でベースを鳴らし続ける。
集中していたため、ドアのノック音に気がつかなかったらしい。
「あ、こんばんはー。映希は?」
知らない声が耳に入り、手を止めた。
ドアから顔を出していたのは、かっこいい中年の男性。
パーマがかかった髪にあご髭、服装もおしゃれだ。
「え、ええ? あ、今日クノさんバイトです。勝手にお邪魔しててすみません!」
「いいよいいよ、映希から聞いてるから」
「ほえ?」
その男性の正体は、クノさんの叔父さんだった。
普段はカメラマンとして世界を飛び回っているとのこと。
(ちなみに映希はクノさんの下の名前。)
「ごめん邪魔しちゃったね。これ差し入れ。映希いないし食べちゃっていいよ」
「うう……何かすみません」
叔父さんはおいしそうな匂いのする紙袋をくれた。
ソースの香りが部屋に広がる。たこ焼きかお好み焼きかな。
ぐーっとお腹を鳴らしているうちに、叔父さんは私のベースを見てニコッと笑った。
「それ、SBV? いいもの持ってるじゃん」