初恋エモ
クノさんがライブハウスに到着したのは、出番の直前だった。
「遅いですよ~! 何してたんですか?」
「あー、ごめん」
クノさんの目はうつろで、テンションも低い。ライブ直前なのに大丈夫だろうか。
心配した通り、ライブでのクノさんは荒れていた。
演奏はいつも以上に荒いし、歌もところどころ途切れている。
つられて私もいつもの調子が出ない。今日のライブのノリについていけない状態。ミスも多かった。
お客さんもいつもより手が挙がっていない。
心配そうにステージを見つめている人もいた。
妙な空気のまま前半の三曲が終わった。
「クノくん、なんかあったの?」
クノさんがチューニングを直している間、葉山さんは私にそう聞き、首をかしげた。
「どうしたんでしょうね。今日荒れていますよね」
私は知らないふりをして、葉山さんの疑問に同意しておいた。
「面白いじゃん。腕の見せ所だね」
葉山さんはいつも以上に楽しそうだ。
私もうなずき、ぱんぱんとほっぺを叩いて気合いを入れた。
いくらクノさんが不調でも、葉山さんのドラムに合わせていれば何とかなる。
ドラムの実力もそうだけど、経験を積んでいるからこその頼もしさがある。
私まで調子をクノさんに引っ張られてはいけない。
どんな状況でも、バンドのために最善を尽くす。
これは葉山さんから学んだことだ。