うるせえ、玉の輿。
なぜこの人は、ほぼ初対面の私を下の名前で呼ぶのだろうか。
痛みをこらえた意識の中、そんなどうでもいい考えが浮かんできた。
「意識はありますか? どこを打ちました? 頭なら動かないでください」
「雨で慌てて洗濯物を入れようとしてただけです。大丈夫です」
それより、業平の荷物を放り出して、そっちの方が大丈夫だろうか。
転がっている荷物を見ようと起き上がると、大きな手が私の肩に伸びた。
「本当にどこも痛くないんですか!」
「あの、やめ」
「痛いなら、言ってください!」
「―-やっ」
私より何倍も大きな人の、興奮した大声。
力では絶対にかなわない手が伸びてくる。
私は悲鳴が喉につっかかり、ひゅっと声がかさかさと口の中で消えていくのを感じた。
駄目だ。
彼は違う。くそ親父じゃない。
くそ親父じゃないのに、――大声、巨体、興奮した目。
どれもこれもがトラウマを呼び起こす。
気づいたら私は立ち上がり、数歩下がったのち、彼にプロレス技をかけていた。
ローリング・ソバット。
飛び上がって蹴る瞬間少し横に捩じって、靴そこで蹴るのがポイントだ。
「きゃあああああああああっ 私の丞爾くん!」