ねえ、理解不能【完】
となりに千草がいる。
それだけで満たされてしまう。安心するの。
千草は私に合わせて歩くスピードを遅くしてくれて、前だったら何も思わなかった優しさに今更心がはねる。
ありがたかったんだな、って気づくにはちょうどいい機会だったんだ思う。
千草に断られなかったことで、これからは元どおりになるとおもってる私は、昨日までの憂鬱な日々にさよならの準備を始めていて。
「えへへ、」
顔がだらしなくゆるんでしまう。
千草は、相変わらずの無表情だけど、しかめっ面よりは全然マシだ。
そっと近づいたら、腕が触れ合って、伏し目がちの千草と目が合う。近い、って口パクで言われた。
そういうやりとりも前のように戻れたみたいで、うれしい。
「夏来たから、暑いねえ」
「ん、だから離れて」
川瀬くんよりも少し低めの千草の声。結構スローペースな話し口調。
やっと、取り戻した気がした。
「夏休みの予定はあるの?」
「別に、色々」
「イロイロね、私もたくさんあるよー」
「へー」
それなのに。さっきから心の隅で違和感がじわじわと存在を主張しはじめてるのはなんでだろう。