ねえ、理解不能【完】
それより幸せの方が勝ってるから、大丈夫かな。
見たくないものは見なくていい。勝手にはじめた自己防衛の先で、わたしは隣に千草がいるという事実以外から目を背ける。
「ねえ、千草」
いつもの通学路にふたりでいる。
学校は、まだ見えない。
「なに、」
「私ね、最近川瀬くんと帰ってるんだけどね、やっぱり千草の方が楽だなって思うよ。川瀬くんといると、なんかやっぱり少し緊張しちゃうんだよね」
“楽”とは少し違う気がするけれど、言ってしまった後では遅いし、わざわざ言い直す必要もないと思って、そのまま続ける。
「この前、千草断ったけどさ、川瀬くんと話してみなよ。趣味がすごく合うの。川瀬くんも幼なじみだったらよかったなとか思ったもん」
「......へー」
「あと、川瀬くんも千草のことかっこいいって言ってたよ。うれしい?」
話していないと落ち着かなくて、話し続ける。
川瀬くんの話がしたいわけじゃない。だけど、話すことがなくなって沈黙になる方が嫌だったから、話題探しに一生懸命だ。
そんな状態だから、今、千草がどんな顔をしているのかなんて分かるはずもなかった。