ねえ、理解不能【完】
千草の家のほんの少し前。
「白崎、見て。俺、ここにニキビできた」
「え、どこ?.......あ!ほんとだ」
見て、と軽やかな口調で言われて歩きながら川瀬くんを見上げる。彼の人差し指がしめす頬のところには確かに小さなニキビがあって。
やつの家を見ないように、気にしないように、そんな呪文を唱える必要もなく、気づいたら自分の家の前だった。
なんというか、川瀬くんも川瀬くんのニキビもファインプレーだ。こっそりと感謝する。
それに、私たち以外の声は聞こえないから、多分隣の玄関の前には誰もいないだろう。
私は自分の家の前で足を止める。
それから、川瀬くんのほうに向き直った。
「ありがとう。送ってくれて、それから、元気をくれて」
助けてくれて、うれしかった。強かになれない時に、それを見抜かずにいれくれたことも、もし川瀬くんがわざとそうしたなら、ありがとう。
「うん、どういたしまして」
川瀬君が、私を見る。
優しい表情だったけど、瞳は真っ直ぐに私をとらえる。
夕焼けのない夕方なのに、その頬が少し赤いのは気のせいだろうか。