ねえ、理解不能【完】
おねがい、拒まないで。
私のことを嫌いになったのは分かってるけれど、今だけだから。
今、千草に拒まれたら、きっと私は死んでしまう。大袈裟じゃなくて、本当にそう思ってるの。
私は、さらにぎゅうっと千草に抱きつく力を強めて、胸に顔をうずめる。
そうしたら、千草の身体から力がぬけたのを感じた。忘れたくなかったけれど忘れてしまっていた香りに包まれて、涙は一向に止まる気配がなくて。
「……っうぅ、っ、こ、怖かったよぉ、」
「……お前、震えてる」
千草が、私をぐっと引き寄せた。
千草の手が私の背中と首にまわる。それから、その手が私の背中をゆっくりさすった。
優しさだけで成り立っているような丁寧な手つきに、恐怖から守られている、とやっと感じることができて。
鼓膜に伝う、とくんとくんって温かくて優しい千草の心臓の音。
「っ、本、当に、怖かった、の」
「......青、大丈夫、だから」
千草が私を抱きしめる手の力を強めて、ぎゅうっと千草の腕の中で押しつぶされそうになる。
少し痛くて、それで、心まで痛くなって。
だけど、ずっと、このままでいたい。
千草の鼓動も体温も、背中をさする手のひらも。
千草のすべてが大丈夫だって言ってくれているみたいで、震えが徐々におさまっていった。
涙も鼻水も相変わらず出っ放しだけど、恐怖と絶望以外のことを考えることができるようになる。