ねえ、理解不能【完】





しばらく、玄関で抱きしめあっていた。



千草が私を腕の中にいれたまま、家の中にはいる。パタン、と閉まった扉。それを判断できるのは、音だけで、千草の胸の真っ暗闇に私はいる。



震えは完全になくなったけれど、恐怖はまだ全然消えていなくて。何も思い出さないように、ただ、千草の胸の中にいるという事実だけをすくいとる。



すると、

後ろから物音が聞こえた。




階段をゆっくりと降りてくる音。

私を抱きしめる千草の身体が、ぐっ、と強ばる。






それで、分かってしまった。



ああ、広野みゆちゃんだ、って。






「……ちぃくん?」




可愛い天使みたいなか細い声。
戸惑ったような声。


なんだか、泣いてしまいそうな雰囲気を感じ取る。



私はその声音に状況を理解して、とっさに離れようと、千草を手で押した。



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