ねえ、理解不能【完】
どうしてなんだろう。
千草の声は時々とてつもなく切なく聞こえるんだ。
壊れてしまいそうで、壊してしまいそうな、そんな声。何をかってことは不明確なままで、つられて私まで切なくなってしまう。
千草、ばれてないとでも思ってる?
ずっと一緒にいたんだよ、私たち。
千草の切ない声も怒ってる声も呆れてる声も嬉しそうな声も、ちゃんと分かる。長年の幼なじみのこと侮らないでほしい。
だけど情けないことに、千草が不機嫌にする理由は全然わからないの。切なそうにする意味も、時々瞳が揺れる意味も。
必要以上のことを言わない千草が、私にその理由や意味を言ってくれることはない気がした。
千草のことで分からないことがあるなんて嫌なのに。
昔ならきっと分かったの。
本当になんでも。
千草のことなら全て知っていて、世界で一番千草のことを理解しているのは千草の家族をぬけば絶対に私だった。
だけど中学生になった頃くらいからだろうか。意味不明な千草が増えて、その頃くらいからますます千草は自分の気持ちを口にしなくなった。そのくせ、千草は私の気持ちはすべてお見通しな感じなの。
千草だけが私のことを全部知っている気がして、その不平等さがすごく嫌だ。
幼なじみの天秤が傾いて、いつか千草と幼なじみじゃなくなったらどうしよう、なんて臆病なことを考える頻度が増えてきて、弱虫だなって自分でも思うよ。