ねえ、理解不能【完】
「.......お邪魔します」
玄関の中に入れば千草の家の匂いに包まれる。
私の好きな匂い。
別に匂いフェチとかではないけれど、安心するといえば千草の家の匂いなの。
だって千草と同じだから。
自分の家でもないくせに、ただいまって言いたくなってしまう。
もしほんとうに言ったら、何様だよって千草に馬鹿にされてしまうだろうけど。
でも今日はたぶんそれもなく、は?の一言だけであとはスルーされるかも。絶対、そう。
千草の背中を追って、階段を上る。
それから千草の部屋に入った。
千草の匂いが濃くなって、それはいつものことなのに、何故かきゅって胸が痛くなる。
いつものようにベッドに腰かける。
そうしたら、立ったままの千草の視線が私の座るベッドに移って、それからすぐに違うところに逸らされた。
と同時にため息をついた千草に、私は自分のスカートの端をぎゅっと握る。
許可なくベッドに座るなとでも言いたいの?
.......そんなの知らない。いつものようにしてるだけなんだから、そんな文句だったら受け付けない。
「……千草なんのため息?」
「別に」
「……いつもわたしベッド座ってるじゃん。なのに、今日はだめなの?そんなの、ひどいと思う」
「だめって言ってない」
「本当は思ってるくせに!」
「.......なんで、すぐ思い込むの」
ーーじゃあ、どうしてなの。何が言いたいの?
千草は今、私に何を伝えたいの。
言わないと分からないことを見つけることは怖いけれど、それよりも分からないことが分からないままなことの方が嫌だよ。