ねえ、理解不能【完】
「.......は、」
それで、ようやく私に気づいたみたいだ。
影に隠れていたから、吃驚したんだろう。
千草はいつもはとろんとしている目を見開いて、口も閉じるのも忘れてしまってる。
千草ってそんな間抜け面もできるんだ。あんまり知らなかった。
私まで、目を大きくしてしまう。
だけど、すぐに冷静さを取り戻した千草は、つん、とわざとらしく不機嫌な表情を作った。
「なに?」
無機質な声。嫌になる。
吃驚した勢いで、『なにっ?!?』みたいな感じで聞いてくれれば、少しは私たちの間の雰囲気も柔らかくなるし、緊張も解くことができたのに。
「.......あ、あのね、」
怖くなってぎゅっと目をつぶる。
スクバを強く握り締めすぎて、指が痛くなった。