彼女は実は男で溺愛で

 身長が低いのも童顔なのも、気にしないようにしてはいるけれど、コンプレックスだ。
 そしてなにより、女性らしい体つきに憧れる。

 なにも、道行くだけで、男性を悩殺できる体がほしいとは言っていない。

 全体的に子どもっぽい出で立ちで、定期券を買おうとしたら「学生証は?」と迷わず聞かれるし、宅配便を受け取ろうとすると「お母さんは?」と言われる。

 その度に、ああ、またか。と思う。
 慣れてはいっても、傷つかないわけじゃない。

「いいなあ。声も落ち着いてて、色気があって」

「誰の声が?」

「ひゃっ」

 心臓を縮こませ、飛び退こうとして、椅子から落ちそうになる。

「ごめんね。遅くなって」

 あの時の華やかな装いから、オフィスカジュアルの服装に変わった彼女は、テーパードパンツにブラウスというシンプルな着こなし。

 それなのに上品で華やかに見えるのは、生まれ持った彼女のポテンシャルの高さだろう。
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