彼女は実は男で溺愛で

「美人の気まぐれに、弄ばれたのかと思いました」

 誘っておいて来ない。
 そんな失礼な態度も、美人なら許せそうだ。

 実際、悠里さんが本当にここに来るかどうかは半信半疑だった。

「なによ。それ」

 すごく美人なのに、クシャッと顔を崩して笑う彼女を見て、きっと外見だけじゃなく中身も綺麗な人なんだと思った。

「で、誰の声に色気があるの?」

「え、それは」

 彼女は私の隣の椅子を引き、腰掛けた。
 興味津々の顔をさせた、本人に打ち明ける居心地の悪さを感じつつも、口を開く。

「悠里さんの。だって適度なハスキーボイスが落ち着きがあって、色気もすごくて」

 言われ慣れているだろうなと、思っていた私に反し、悠里さんは目を丸くして顔を隠すように頭をかいた。
 それから、照れたように告げる。

「初めて言われたわ。貴重な意見」

「そ、そうですか? 大人の女性という感じがして羨ましいです」

 ため息混じりに訴えると、悠里さんは苦笑する。
< 11 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop