彼女は実は男で溺愛で
「それは、だって。染谷さんだから」
「俺だけ? 本当に? 佐竹には?」
「え、佐竹さん?」
声が裏返り、もしかして、が現実味を帯びる。
「あの、間違っていたら、すみません。悠里さんの想い人って」
ゴクリと喉を鳴らし、染谷さんを見つめる。
「もしかして、佐竹さんですか?」
目を見開いた彼は力なくうなだれ、乾いた笑い声を転がり落とした。
「ハハ。俺って、そんなに惚れっぽく見える?」
「いえ。そういうつもりじゃ」
頭をガシガシとかき、彼は前髪をかき上げた。
その仕草が男っぽくて、ドキンと胸が飛び跳ねる。
「俺、大切な子はひとりしかいないよ」
真っ直ぐに見つめられ、私だと言われたわけじゃないのに顔が熱くなる。
「す、すみませんでした。ミーハー心を抑えられなくて」
「うん。俺も呼び止めて悪かった。俺の頼みたい仕事は後で構わないから。議事録作成、頑張って」
私は染谷さんに一礼して、会議室を出た。
こっち側の彼に会うと、調子が狂う。
俳優さんになったら、彼でも彼女でも賞が取れそう。
なんだか全くの別人みたいだ。