彼女は実は男で溺愛で
席に戻るとお昼になったばかりなのに、柚羽が私の席にいた。
「遅いよ!」
やきもきしているような柚羽に「ごめんごめん」と謝ると、彼女はお弁当片手に私の手を引っ張る。
「急いで! 行くよ!」
柚羽に急かされ、私もお弁当を手にした。
未だ、私の手を引く柚羽。
柚羽の手は、女性らしい線の細い小さな手。
悠里さんの手は……。
悠里さんを頭に思い浮かべようとしたのに、どうしてか染谷さんの外見と指先が脳裏に過ぎる。
いやいや。違うから。
あれ、違わないか。
混乱して、支障をきたしている私を柚羽は引っ張ってずんずん歩いていく。
「あれ、どこに?」
「いいから」
目的地があるのか、迷わず進む柚羽に引きずられるようについていく。
「ここ」
立ち止まったのは、会議室の前。
きょとんとしている私を置いてきぼりにして、柚羽はドアをノックした。
中から返事はない。
「よし。行くよ」
小声で言う柚羽に、ドキドキと鼓動が速まる。
躊躇なく開いたドアの向こう側には、目を点にした人物。
「なに?」
怪訝な表情を浮かべるその人は、お弁当を食べていた。