彼女は実は男で溺愛で

「馬鹿らしい」

 そう言って、村岡さんは椅子に腰掛けた。
 柚羽は嬉しそうに目を弓形にして「失礼します」と、また村岡さんの向かいに座った。

 顔は背けているものの、村岡さんは立ち上がらずにお弁当を広げた。
 私たちもそれに倣うように、お弁当を広げた。

「え、それ以来、ロッカー開けていないの?」

 制服が切り刻まれていた状況を説明し、次の日に貼り紙をしたところまで話すと、柚羽が声を上げた。

「ロッカーを使う時点で、考えなしね」

 聞いていないのかと思っていた村岡さんから、手厳しい指摘が入る。

「え、だって、村岡さんが「ここがあなたのロッカーね」って案内してくれましたよね」

 初日にフロアを案内され、ロッカーの場所も教わったのは村岡さんだ。

「馬鹿正直に使え、とは言っていないわ」

 ため息混じりに言われ、言葉尻が強くなる。

「ロッカー使わない方が安全だって知っていたのなら、先に教えてくださいよ!」

「使う使わないは本人の自由」

 ああ。確かに初日、その説明を受けた。
 そこから、イジメを想定しなさいと?

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