彼女は実は男で溺愛で

 悠里さんが歩みを止め、扉を開けた。
 私は、開かれた扉の向こう側を見て、目を瞬かせた。

「マネキンが」

「これはトルソーって言うの。顔がないでしょ」

 中にいた人が、私の呟きに説明をくれる。
 体のラインが出る、薄手の春ニットを着ている女性。

 憧れのメリハリボディ。

 特に豊満な胸元と、キュッと締まった腰回りに釘付けになる。

「ハハッ。視姦されそう」

 彼女は、ルーズにまとめた後ろ髪を揺らし、大きめの丸メガネを押し上げて笑う。

「へ? しかん?」

「里穂(りほ)。言動に注意して」

 悠里さんから厳しい声をかけられ、里穂さんは肩を竦めた。
 里穂さんの首には社員証がかけられていて、ボディメイクアドバイザー:浅見里穂(あさみりほ)と書かれている。
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